P - Please D - Don’t C- Change A - Anything

いつでも今日が、いちばん辛い日。

喪失感

昨日、彼女と共にお気に入りのカフェに赴いた。

 

そのカフェは若い店主が運営していて、他にはアルバイトが1名。アルバイトの顔は毎回変わっているものの、そこに行けば店主は必ず居た。北欧デザインで彩られているカフェで、物凄く居心地が良く徐々に有名になっているんだろうと個人的には感じていた。19時くらいにはいつも満席になり、地元の裏通りにある小さいカフェながらも、盛況ぶりに驚いたのも記憶に新しい。

俺たちは入口にあるケーキのショーケースを横目に「本日のケーキ」を確認しつつ、マリメッコのカーテンが敷かれている壁際の席まで移動して腰掛ける。レモン風味のミネラルウォーターを飲みながら、料理1品+デザート+ドリンクのディナーコースを必ず注文する。

初めて来た時には自分はタコライスを注文したが、彼女が食べていたクリームパスタの美味しさは衝撃的で、以来必ずクリームパスタを注文するようにしていた。ケーキは紫イモのモンブランが絶品で、ドリンクは種類が豊富で、中でもエスプレッソを使ったドリンクはケーキを格段に引き立てる。

このコースで1,600円程度だが、自分の中の支払意志額はもっと高い。

互いに「紫イモのモンブラン」が特別お気に入りだった。

昨日も、紫イモのモンブランがショーケース内に後一個だったら、互いに譲らないと話をしていた。

 

しかしながら、もうそのカフェは閉店していた。まさに蛻の殻だった。個人的にも人気が出てきていたと感じていたし、食べログでも評価が上がってきていたのは知っていたために移転を疑ったが、入口に貼られていた張り紙には全く別のカフェができるとの情報が明記されていた。次にその空いたスペースへ店舗を構えるのは個人が経営している自営業ではなく、組織である株式会社が運営しているカフェとのことだった。

 

慌ててグーグルで検索し、発見した元店主のブログを確認すると、店主の悲痛な想いが赤裸々に書いてあった。急な話で、恐らく、カフェの経営に失敗したんだと感じる文章であった。次に店舗を構える株式会社から打診があったのかどうかは分からない。ただ、夢を持って店を立ち上げて直向に頑張ってきたけれども、道半ばで店を畳まざるを得ないような状況になってしまったんだと感じた。

 

ぽっかり胸に穴が開いた気分になった。彼女もきっとそうだったろう。近くに生パスタを売りにカフェを営んでいる店があり、そちらへ移動して食事をしていたが、申し訳ないが美味しいのだろうが全く美味しく感じない。お気に入りだったカフェとは客層も違い、煩いババアが入店してきたこともあってか早く出たいと思ってしまった自分がいた。

その後、地元の本屋で彼女がカフェ本を読み、懸命にお気に入りのカフェを探していた。閉店したカフェは互いの想い出があり、これからもどこかのカフェで想い出を作りたいと思っていたのかもしれない。

 

あのカフェは落ち着く場所であり、二人の想い出の場所だった。

 

もう、そこには無い。